それが、しばらくのお別れになるとは思わなかった

荷物の確認が終わると、夫が病院に持ち込むことになった荷物は、まとめて台車に載せられました。

入院に必要な準備が、一つずつ終わっていきます。

けれど、そのときの私は、まだこのあと何が起こるのか、きちんと理解できていませんでした。

看護師さんが夫に声をかけました。

「じゃあ、旦那さん。次はこちらに来てください」

そんな自然な流れでした。

夫も、

「またすぐに戻ってくるのだろう」

そんなふうに思っていたのではないでしょうか。

特に別れの挨拶をするわけでもなく、夫は看護師さんについて部屋を出ていきました。

夫は何度か、不安そうにこちらを振り返っていました。

けれど私は、その意味を深く考えることもなく、その姿を見ていました。

まさか、あれがしばらくのお別れになるとは思っていなかったのです。

夫の姿が見えなくなりそうになったとき、私は看護師さんに尋ねました。

「夫は、このあとどこか検査に行くのですか?」

すると、看護師さんは、

「いえ、このまま病室へ行きます」

と答えました。

そのとき、初めて理解しました。

「ああ、もう入院準備が終わったんだ」

「このまま夫は病室へ行ってしまうんだ」

そう気づいたときには、もう遅かったのです。

夫はすでに病棟の角を曲がり、姿が見えなくなっていました。

呼び止めることもできませんでした。

きっと夫自身も、あのまま病室へ連れて行かれるとは思っていなかったのではないかと思います。

私も、あまりにも突然の流れに驚きました。

「じゃあね」

「頑張ってね」

「また会おうね」

そんな言葉を交わす時間すらありませんでした。

今になって思えば、病院側にも理由があったのかもしれません。

別れの時間を作れば、

「入院したくない」

「帰りたい」

そう言って、夫の気持ちが変わってしまう可能性もあります。

だからあえて、本人にも家族にも「これが別れの瞬間だ」と強く意識させないようにしていたのかもしれません。

もちろん、それが実際に病院側の意図だったのかは分かりません。

けれど、後から振り返ると、私はそう感じています。

結果として、夫も私も、心の準備をすることができませんでした。

お互いにきちんと顔を見て、言葉を交わすこともできなかった。

「しばらく会えなくなるんだ」

そう理解する間もないまま、夫は病棟へ行ってしまいました。

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