受付を終え、持ち込んだ薬の確認などを済ませると、次は診察の時間となりました。
私たちは大量の荷物を抱えたまま、診察室に呼ばれるのを待ちました。
20分ほど待ったでしょうか。
その間、義母は夫にコーラを買ってきました。
「これからは自由に飲んだり食べたりできなくなるかもしれないから」
そう言って、夫の好きなコーラを飲ませていました。
義母なりに、入院前の夫を気遣っていたのだと思います。
そして、診察室に呼ばれました。
私は夫と一緒に診察室へ入ることになりました。
そこで義母にも、
「お義母さんも一緒に」
と声をかけました。
けれど、義母は診察室へ入ることを拒みました。
私は、そのとき少し驚きました。
実の息子がこれからどのような診断を受けるのか。
医師からどのような説明があるのか。
私だったら、聞いておきたいと思う。
けれど、義母は中に入ろうとはしませんでした。
なぜ入らないのだろう。
息子の状態や診察結果を知りたくないのだろうか。
当時の私には、義母の姿がどこか他人事のようにも見えました。
今思えば、義母自身も精神的に疲弊していて、診察に同席する余裕がなかったのかもしれません。
けれど、当時の私はそんなふうに考える余裕もありませんでした。
夫のことを知ろうとしないように見えた義母に対して、私は複雑な気持ちを抱いていました。
こうして、診察室には私と夫が入りました。
中に入ると、そこには医師だけではありませんでした。
ケースワーカーさん。
主任看護師さん。
そして、もう一人の看護師さん。
複数の医療スタッフが並んでいました。
夫は、その光景を見て明らかに警戒していました。
「みなさんの前で、自分のことを話さなければいけないんですか?」
夫は、強い口調で尋ねました。
するとスタッフの方から、
「○○さんを看護するために、情報を共有させていただきたいと思っています。ご了承いただけますか」
と説明がありました。
夫は納得したようでしたが、緊張や警戒心が強いことは明らかでした。
診察では、さまざまなことを聞かれました。
すべての質問を覚えているわけではありませんが、たとえば、
・家族構成や、現在の家族の状況
・いつ頃から、どのように体調を崩したのか
・仕事の状況や、職場での人間関係
・現在の体調や、具体的な症状
・今回の入院について、本人がどのように感じているのか
などについて、時間をかけて聞き取りが行われました。
医師が次々と質問をするというよりも、夫が自分のことを話し、それを医師がじっくりと聞く。
そんな時間が長かったように思います。
私はその様子を見ながら、
「ここまでしっかり話を聞いてくれるのだ」
という印象を受けました。
夫は、最初こそ警戒した様子を見せていました。
けれど、何かをきっかけに、それまで張り詰めていたものが一気に溢れ出したのでしょうか。
突然、堰を切ったように泣き始めました。
そして診察中、夫はほとんど泣きじゃくっていました。
言葉を発しようとしても、涙で声が詰まり、会話にならない瞬間もありました。
それでも医師は急かすことなく、夫のペースに合わせて待っていました。
泣き止むのを待ち。
夫が話せるようになるのを待ち。
そして、少しずつ言葉を引き出していきました。
その姿が、私にはとても印象的でした。
診察の最後に、医師は夫にこう尋ねました。
「○○さん。今は、いろいろな出来事があって、心が疲れてしまっている状態だと思います。
入院して、しばらく休むということで大丈夫でしょうか?」
夫は涙を流しながら、
「よろしくお願いします」
と答えました。
こうして、夫自身の意思を確認したうえで、入院することになりました。
その言葉を聞いたとき、私はようやく夫を安心して医療の手に委ねられるのかもしれないと思いました。
ここまで、本当に長かった。
夫自身も、きっと限界まで頑張っていたのだと思います。


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