兄が離婚したとき、父がかけた言葉

やはり、兄の心が病んでしまった一因には、両親との絶縁があったのだと思います。

もちろん、それだけが原因だったとは思っていません。

でも、兄にとって両親との関係が大きな苦しみになっていたことは、間違いなかったのだと思います。

兄のパートナーとの面会は、ひとまず穏やかに終わりました。

ところが、その後、父のもとに彼女からメールが届きました。

そこには、こんな内容が書かれていたそうです。

どうして兄が離婚したとき、ひと声かけてあげなかったのか。

○○くんがつらいとき、どうして連絡ひとつしてあげなかったのか。

兄が亡くなってしまった悲しみと、やるせなさ。

そして、家族が兄に寄り添わなかったことへの強い思いが、綴られていたのだと思います。

最後には、

「赤の他人の私が、このような差し出がましいことを言って申し訳ありません」

という言葉もあったそうです。

でも、私は彼女がそう言いたくなった気持ちが分かるような気がしました。

そうなのです。

兄が離婚したときのことです。

兄と両親は、その時点ですでに何年も絶縁状態にありました。

それでも兄は、父にメールを送ったそうです。

「離婚することになった」

そんな内容だったと聞いています。

私は、そのメールの詳しい内容までは知りません。

ただ、数年来絶縁していた父に、自分の離婚を伝えた。

兄なりに、最後まで筋を通そうとしたのではないでしょうか。

メールを送ることにも、きっと勇気が必要だったと思います。

そして、父から返ってきた言葉は、

「わかった」

それだけだったそうです。

私はその話を聞いたとき、心が凍るような思いがしました。

自分の息子が離婚する。

それまで一緒に暮らしていた家族を失い、ひとりになる。

しかも、数年来絶縁している父親に、自分から離婚することを伝えた。

そんな息子から連絡が来たら、私なら何と返すだろう。

「どこに住むんだ?」

「引っ越しの手は足りているのか?」

「何か困っていることはないか?」

「何か食べ物でも送ろうか?」

そして、

「離婚しても、絶対にお前の味方だからな」

そんな言葉をかけてあげることだってできたはずです。

兄が求めていたのが何だったのか、本当のところは分かりません。

もしかしたら、ただ自分の父親に、離婚したことを伝えたかっただけなのかもしれません。

それでも私は思います。

どうして、そんな優しい言葉のひとつすら、父はかけてあげられなかったのだろう。

兄は、どんな気持ちで「わかった」という返信を読んだのでしょう。

そのメールを見て、何を思ったのでしょう。

今となっては、兄に聞くことはできません。

私はこの話を知ってから、父に対する怒りがさらに強くなりました。

「なぜ、あのとき一言でも優しい言葉をかけてあげなかったのか」

そう思わずにはいられません。

兄がどれほど傷ついていたのか。

父は、どれほど時間が経ってから気づいたのでしょう。

私は今でも、父には自分が兄にしてしまったことの重さを、ずっと背負って生きてほしいと思ってしまいます。

そして、兄が最後まで抱えていた孤独の中に、家族との関係が少なからずあったのではないか。

そう思うと、悔しくてたまりません。

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