兄の車の廃車手続きは、私が行いました。
いくつかのサイトで相見積もりを取り、その中で一番高く買い取ってくれる会社にお願いすることにしました。
車の買取金額を受け取るのは、相続人である甥っ子たちです。そのため、兄の元嫁さんとも連絡を取り合いながら、手続きを進めていきました。
必要な書類を集め、いよいよ車を引き渡す日がやってきました。
冬の雪道を運転し、兄のアパートへと向かいました。
その日は、なぜか言い知れぬ恐怖感がありました。
普段はあまり聴くことのないラジオをつけ、音を流しながら運転しました。
少し早く到着したので、車の中で業者さんが来るのを待つことにしました。
けれど、待っているうちに、何とも言えない恐怖心がどんどん強くなっていきました。
ひとりでいることが、どうしてもつらくなってしまったのです。
私は友人に電話をかけました。
幸い、平日の日中にもかかわらず連絡がつき、業者さんが来るまでの間、いつでも連絡できる状態でいてくれました。
あのとき、ひとりで抱え込まずに済んだことが、どれほど心強かったことか。
本当に感謝しています。
業者さんを待つ間、私は兄の車の中をもう一度確認しました。
貴重品が残っていないか。
何か大切なものが置き忘れられていないか。
すでに一通り整理していたので、特に何も残っていませんでした。
ただ、兄を救出する際に割った窓ガラスの破片が、あたりに散らばっていました。
その光景を見ながら、いろいろなことを思い出していたのかもしれません。
やがて、業者さんが到着しました。
ところが、冬の雪道で除雪も十分に入っておらず、レッカー車は兄のアパートの近くまで入ってくることができませんでした。
業者さんは少し離れた場所にレッカー車を止め、そこから歩いて来てくれました。
少しお話をして、私は車の鍵を渡しました。
すると、業者さんは何のためらいもなく車のエンジンをかけました。
そして、そのまま車を走らせていきました。
私は、その様子を眺めていました。
やがて、兄の車はレッカー車のところまで運ばれ、ワイヤーをかけられました。
車体が宙に浮き、そのままレッカー車の荷台へと載せられていきます。
私は、凍える手を温めながら、その様子をじっと見つめていました。
車がゆっくりと遠ざかっていきます。
廃車の手続きが終わることに、ほっとした気持ちがありました。
これで、またひとつ、兄に関する手続きが終わった。
そう思う一方で、何だか兄を見送っているような、寂しい気持ちにもなりました。
兄の遺品を整理し、車を手放す。
ひとつずつ片付けていくたびに、兄がこの世に残していったものが、少しずつなくなっていくような気がしました。
遠ざかっていく車を、私はいつまでも眺めていました。


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